なにやら三題話のようなタイトルですが、ここで取り上げたいのはマインドセットの問題です。
わかりやすい例として、西武ライオンズのG.G.佐藤外野手のお話をしたいと思います。というのは、WBCの監督問題が喧々諤々の様相を呈していまして、星野ジャパン惨敗の戦犯として何度も挙げられているからですね。
G.G.佐藤選手は毎年、春先に調子が良くて、ペナントレースが進むにつれて尻切れトンボで終わる結果を繰り返しています。そして、実力がついてくるに従い好調持続期間が長くなって、今年はオールスター前くらいまで調子が良かった。
あるとき、ヒーロー・インタビューで、インタビューアーが「三冠王が射程に入っていますね」という質問をしたのですが…
「どうも、今の位置(首位打者、打点王)は落ち着きませんので、もっと下のほうに(騒がれずに)落ちたいです」という受け答えをしたのです。
このようなインタビューは当人には迷惑な話かもしれません。相撲でも、中盤くらいで星の差をリードしている力士に、「優勝の最有力候補ですね」などとインタビューして、力士に無用なプレッシャーをかけたりしています。
「優勝は気にせず、一番一番、精一杯やるだけです」と答える力士は、実はプレッシャーをはねのけようと努めて意識しないようにしているというのに…。
G.G.佐藤選手のインタビューの答えを聞いていて、「ああ、ダメだな…」と思わずにはいられませんでした。
すでにプレッシャーに負けています。
人は誰でもセルフイメージを持っているわけですが、それが低い。
謙虚な人柄なので、低いというのはダメということにはなりません。
しかし、セルフイメージが低いと何が問題になるかというと、そこに安住してしまう、という危険性があるからです。セルフイメージというのは、自分が落ち着くレベル(コンフォータブル・ゾーン)にあるというのがいわゆる反省以前的な自己認識、つまり一般的な自意識のあり方なのです。
しかし、何事においてもより上を目指すためには、自分で自分の限界を設定したりしないで、もっともっと高い目標とセルフイメージを持たねばいけないのです。「俺の実力はこんなものではない、もっともっと上の結果を出せるはずだ」とスーパーサイア人のように燃えないと。
神田正典さんが、成功するためにはある時期傲慢にならなければいけない、という意味の事を言っていましたが、特に勝負の世界で生きる人間には絶対必要なことです。
G.G.佐藤選手は人一倍練習熱心で、アメリカで学んだトレーニングを続けて、体を鍛え上げ、技術を向上させてきたわけですが、実力をつけていく事で自信をつけて、自己イメージを少しずつ挙げていくという生真面目なやり方をとっているのでしょうね。
けれども、思っていた以上に良い結果が出続けて、怖くなってしまったのでしょう。それで、「早く下のほうに落ちたい」というようなことを言った。
ところが、潜在意識は良い悪いの判断をしないで、良い結果を出さない方に彼を導いてしまったわけです。セルフイメージというのは相当強力に人の心を左右します。その働きを「メンタル・ブロック」といいますが、自分で作った自分の壁=限界なのです。
何のために必死で努力しているのかと言えば、現在の自分に満足せずにレベルアップしたいからのはずですが、メンタルな面で自分自身を引きずり下ろすことをやっている、ということなのですね。
案の定、それ以降のG.G.佐藤選手は下降線をたどり、打率3割まで落ちていきました。
それでも、生真面目で努力家の彼は、埼玉での試合が終わった後も、自宅に戻らずに横浜のスポーツジムまで、毎日通って、納得してから帰宅する、というのを聞きまして、なるほどと思いました。
なぜ、彼の成績が尻切れトンボになるのかわかる気がしました。頑張りすぎて疲れていってしまうのでしょう。年間144試合もやりますと、どの選手でも体はボロボロという感じになります。
それなのに、試合後に、自宅を素通りして横浜までウエイトトレーニングに行っていたら、最後までもちません。無茶をしています。
巨人の伊原ヘッドコーチが、今年トップバッターとして開花した鈴木選手を指導したときに、練習のし過ぎで故障をしている、練習をやめろ、と指摘したということが大きな成功要因だったそうです。
今年の七夕祭りのとき、西武ライオンズの選手はそれぞれ五色の短冊に願い事を書きました。ほとんどの選手はもっと打率を上げたいとか盗塁王をとるぞ、みたいな妥当なお願いでしたが、G.G.佐藤選手は「もっと筋肉をつけたい」と書いて、周囲から「これ以上筋肉をつけて、どうすんの!」と言われたそうです。
2005年だったか、試合中にライトフライを追いかけて、セカンドの片岡選手とG.G.が激突したとき、片岡選手は負傷してその後の出場を棒に振りました。片岡選手は「まるで重戦車にぶつかったようだった!」と言っていましたね。
それほどの筋肉マンなのになぜ、G.G.佐藤選手は自滅するほどウエイト・トレーニングをするのか?
それは、彼の精神的な弱さからくるのではないかと思います。
成績が落ちれば落ちるほど落ち込むタイプなので、トレーニングをして自信を取り戻したい。
本当ならば、バッティング投手にお願いして徹底的に打ち込むべきなのに、自分のためにだけ毎日特打をやることを遠慮しているのではないでしょうか。
だから、内向的で生真面目な彼は自分だけでできるスポーツジムでのトレーニングに精を出す。
そして、筋トレ依存症になっているのでしょうね。
たとえば、医者の出す薬を飲まないと気持から病状が悪化する薬依存症とか、健康食品を愛用しているうちに、それを摂取しないと病気になってしまうかのような気持ちになってしまうサプリ依存症などと同じです。
北京から帰ってきたG.G.佐藤選手は、「北京では、満足に筋トレもできなかった…」と本音を漏らしました。
いくら筋骨隆々でも、バットにボールが当たらなければホームランどころかヒットにもならないよ、と言いたいところです。筋トレはやりすぎると筋肉が硬くなりますし、筋肉がつきすぎて各関節の稼動範囲が制限され、悪影響を与える場合があります。
インナーマッスルを鍛えるときに、余計な筋肉をつけてしまうというミスを犯したのが、清原選手であることは有名です。イチローはその辺の事を良く分かっていて、ストレッチングで体の稼動範囲を広げ、運動能力を大幅にアップしました。筋肉マンには、かえってレーザービームは投げられないと思います。
さて、セ・パ交流戦が終わって、いよいよ北京オリンピックが近づいてきた。
G.G.の打撃成績は崖を転がり落ちるように急降下中、絶不調でした。とても、急浮上する感じではなかったですね。
そして、オリンピック合宿以降、(精神的)頼みの筋トレが思うようにできない不安感。
さらに悪い事は、オリンピックチームでの守備位置は、普段やった事のないレフトのポジション。
絶不調+筋トレ禁断症+不慣れなレフト守備
この不安3点セットの中で、彼は最初の出場台湾戦でノーヒット、次のオランダ戦ではホームランを放つが、勝って当たり前の試合で自信回復には程遠い。
そんな中で最初のエラーを犯します。
多くの方が、ブログなどで守備の悪いG.G.佐藤など使うなという事を書いていますが、西武ライオンズの外野手12人のうちで、彼は3本指にはいる守備力の持ち主だと思います。
格別守備が良いという印象はありませんが、今年100試合くらい見た中で、彼がエラーをしたのを見た事はありません。堅実な守備だなという印象を持っています。
3重苦の中で、試合を左右するようなエラーをしたG.G.はレフト守備恐怖症に陥ったと思います。生真面目で落ち込みやすい性格、不安の3重奏の中で、彼はパニックに近い金縛り状態だったはずです。
そして普段経験しないオリンピックという精神的重圧と大観衆。このような精神状態では、たとえば自分の名前すら手が震えて書けないという状態にあったのではないかと思います。
彼に必要なのは、
・筋トレをやめてストレッチをすること。
・バッティングの技術に磨きをかけること。
・修羅場をくぐり抜けて、百戦錬磨のふてぶてしさを身につける事
…なのではないかと思います。
そして、それ以上に「俺の実力はこんなものではない!」と本気で言えるマインドセットですね。
戦うときは、鎧兜を身に着けるだけでなく、心にも鎧兜をつけなければいけないのかもしれません。
気は優しくて、力持ちなだけでは、戦えないのですよ。